個人事業主の「給料」の決め方と考え方とは。具体的な事例と合わせて紹介
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目次
個人事業主の給料の考え方とは
個人事業主とは、法人を設立せずに、個人で何らかの事業を営んでいる人のことです。
税務署に開業届を提出し、事業開始を申告すると個人事業主になることが出来ます。
そのため、個人事業主という職業には、「給料」という一般的な概念が存在しません。
個人事業主が自分自身に給料を支払う場合、それを経費に計上することは可能なのでしょうか?
ここでは、個人事業主の給料の考え方を詳しく解説していきます。
前提:個人事業主に「給料」の概念がない
まず、個人事業主には「給料」という一般的な概念がありません。
なぜなら、個人事業主の収入は、自身が経営する事業から得られる全ての売上が収入となるからです。
ここで会社員と従業員の違いをみてみましょう。
会社員の場合、まず所属する会社と雇用契約を結び、原則として会社からの指示により業務を遂行します。一般的に月の「給料」は定額で、年に2回ボーナスが支給される企業が多いでしょう。また、一年に1回会社への貢献度を評価され、「給料」を増やすことも可能です。会社員の最大のメリットは毎月安定的に収入を得ることが出来ることでしょう。
個人事業主の場合、事業は自分で行う必要があり、業務指示も自分の裁量で決めなければなりません。そのため、定額支給の会社員と異なり、頑張れば頑張るほど収入を増やすことが出来ます。しかし、赤字になった場合は自分でその損失をカバーしなければなりません。
個人事業主は給料を経費に計上出来る?
基本的に、個人事業主が自分自身に対して給料を支払い、それを経費に計上することは不可能です。
なぜなら、経費とは事業を運営するために必要な費用を指すため、自分自身に対する給与はこれに該当しないからです。
個人事業主の給与に相当するものは、「所得」となります。
簡単にいうと、一年間の”売上”から”経費や仕入れ費用等”を差し引いたものが、個人事業主の「所得」となります。
さらに、ここから税金を支払う必要がありますし、事業に必要なお金も確保しておく必要があります。
そのため「所得」すべてを自由に使えるわけではないのです。
「給料」ではなく「事業主貸」という勘定科目に分類される
個人事業主が事業から引き出すお金は、給料ではなく「事業主貸」と呼ばれる勘定科目に分類されます。
事業主が自身の事業から引き出すお金、つまり生活費等を賄うための資金はこの「事業主貸」に記録されます。
この考え方は、個人事業主が自分自身に給料を支払っているという概念ではなく、事業から個人へ資金が移動しているという考え方に基づいています。
また、個人事業主の家族が従業員として働いている場合、家族の給料も経費として扱うことが出来ません。詳しくは後述します。
従業員がいる場合はその給料は経費計上可
個人事業主が従業員やアルバイトを雇っている場合は、その給料は経費として計上することが可能です。
アルバイトに対する給与には「給与所得控除」が適用されます。その額は所得税計算の際に控除されます。
アルバイトの給与については、一定額以上の支払いがあった場合、源泉所得税を徴収し、その証明として源泉徴収票を発行する義務があります。
源泉徴収票は、確定申告時に必要となるため、適切に管理することが重要です。
前述したとおり、個人事業主の家族が従業員として働いている場合は、「経費」として扱うことができません。個人事業主が青色申告を行う場合は、家族に支払った給与を「専従者給与」として経費計上することが可能です。
「事業主貸」を使用するケースと「事業主借」を使用するケースをそれぞれ紹介
個人事業主が事業から引き出すお金と、事業に投入するお金を記録するために、「事業主貸」と「事業主借」の二つの勘定科目が使われます。
それぞれどのように使い分ければいいのでしょうか?
ここでは、それぞれの使用ケースを具体的に紹介します。
「事業主貸」を使用するケース例
「事業主貸」と呼ばれる勘定科目は、事業主が自身の事業からお金を引き出す際に使用されます。
例えば、事業主が生活費を賄うために事業から一定の額を引き出す場合や、個人的な出費のために事業の収益を使用する場合などが該当します。
具体的なケースとしては、以下のようなケースが挙げられます。
- 生活費として事業の資金から支払ったことがある。
- 個人事業主が自分の家族の旅行費用を事業の資金から支払ったことがある。
- 自身の住宅ローンの返済費用を事業の資金から支払ったことがある。
- 税金や社会保険料を事業の資金から支払ったことがある。
「事業主借」を使用するケース例
「事業主借」は、先ほどの「事業主貸」とは逆のケースとなり、事業主が自身の私的な資金を事業に投入する際に使用される勘定科目です。
例えば、事業の初期投資や、事業運営に必要な機材や設備を購入するために自身の私的な貯金を事業に注ぎ込む場合などがこれに該当します。
具体的なケースとしては、以下のようなケースが挙げられます。
- 個人事業主が新たに事業を拡大するために自身の資金を投入したことがある。
- 事業のキャッシュフローが悪い時期に自身の貯金を注ぎ込んだことがある。
- 個人用のクレジットカードで仕事用の交通費を支払ったことがある。
「事業主貸」と「事業主借」の適切な使い方を理解し、事業と個人の資金の流れを明確に把握することで、事業運営を円滑に行うことが可能です。
また、銀行口座やクレジットカードについては、事業用とプライベート用で分けておいた方が、帳簿をつけるときに煩雑になりません。
可能な限り、事業用とプライベート用でお金の管理を別にすることをおすすめします。
個人事業主が従業員の給料を決める際の4つのポイント
個人事業主が事業拡大の一環として従業員を雇う際には、給料設定が重要な課題の一つです。給料は従業員のモチベーションを保つためだけでなく、法的な義務や事業の経済的な側面も考慮する必要があります。
以下では、従業員の給料を決める際の4つのポイントを紹介します。
同業者が支払っている給料や時給相場を調べる
まず、同業者がどの程度の給料を支払っているか給料や時給の相場を調べます。
加えて、地域や業界の時給相場がどの程度であるかも調査することが重要です。
これにより、公正な給料を設定するための基準を持つことが出来、優秀な人材を雇うことが可能になります。
出ていくお金を少なくしたいという思いで相場を下回る給料を設定してしまうと、良い人材を確保することが難しくなる可能性があります。
各都道府県提示の最低賃金以下にならないように注意
法律により、各都道府県では最低賃金が定められています。
この最低賃金を下回る給料を支払うことは違法となります。違反すると「最低賃金法4条」により罰則(50万円以下の罰金)を受けることになりますので、従業員の給料を設定する際にはこの点に十分注意が必要です。
また、最低賃金は定期的に見直されるため、最新の情報を把握しておくことも重要です。
傾向として、2023年現在、最低賃金は年々上がっています。
給料以外にかかる費用負担も考慮に入れる
従業員に給料を支払う以外にも、社会保険料や雇用保険料などの費用が発生します。
これらの費用も事業経費の一部であるため、給料設定の際にはこれらの追加費用も考慮に入れる必要があります。
また、交通費の支給や賞与、福利厚生費用なども予算に含めておくと良いでしょう。
残業代・有給休暇も考慮に入れる
従業員の労働時間が所定労働時間を超える場合、「残業代」を支払う必要があります。
事前に事業の性質や業務量を考慮し、予想される残業時間を算出しましょう。
そして、それに対応するために給料も予算に含める必要があります。
また、従業員には法律により「有給休暇」が保証されています。有給休暇中も給料を支払う必要があるため、この点も給料設定時に考慮すべき重要なポイントとなります。
従業員の給料に関する処理について
個人事業主として従業員を雇用する際、給料に関する税務処理は適切に行う必要があります。
これには、給料支払事務所の開設の届出、源泉徴収の義務、給料賃金の帳簿計上などが含まれます。
ここでは、従業員の給料に関する処理について詳しく説明します。
給料支払事務所等の開設の届出を税務署へ提出する
従業員に給料を支払うための給料支払事務所を開設した際には、その届出を税務署に提出する必要があります。
この届出は、給与所得の源泉徴収に関する法律に基づいており、事業主が給料を支払う際の所得税等を源泉徴収するためのものです。
これにより、税務署が従業員から直接税金を徴収する手間を省くことが出来ます。
源泉徴収が義務になることに注意
従業員に給料を支払う際、その給料から所得税や住民税を徴収し、これを税務署へ納付する「源泉徴収」が義務付けられています。
例えば、所得税は所得者自身がその年の所得金額とこれに対する税額を計算し、これらを自主的に申告して納付する、いわゆる「申告納税制度」を採用しています。
これと併せて特定の所得については、その所得の支払の際に支払者である個人事業主が所得税を徴収して納付する「源泉徴収制度」が採用されています。
この源泉徴収は、税金の逃れを防ぐための制度です。給与所得の源泉徴収に関する法律に基づいています。
この源泉徴収の義務を怠ると、重い罰則が科されることがあるため、注意が必要です。
給料賃金として帳簿に計上する
従業員に支払った給料は「給与賃金」として経費として帳簿に計上することが出来ます。
この給料賃金の計上は、事業の収支を正確に把握し、事業の利益を計算するために重要です。
また、帳簿を正確につけることは税務調査においても重要となり、税金計算の基礎となるため、適切に行うことが求められます
個人事業主の勘定科目について
個人事業主が経理を行う際には、正確に収支を記録するために勘定科目を使用します。
勘定科目は経済活動を分けるためのツールで、経済活動の性質や内容によって異なる科目に分けられます。
ここでは、基本的な勘定科目と、従業員がいる場合に認められる勘定科目について説明します。
基本的な勘定科目
勘定科目とは、会社の取引による「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」について、
その性質をわかりやすく記録するために必要な分類項目の総称となります。
個人事業主が使用する基本的な勘定科目は以下の通りです。
- 資産:現金、土地、建物など、手元にある資産のことを指します。
- 負債:買掛金、借入金など、未だに支払いをしていない代金のことを指します。
- 純資産:資本金、元入金など、資産から負債を控除したものを指します。「自己資本」とも呼ばれます。
- 収益:売上高、受取利息など、事業活動によって得られた収入を指します。
- 費用:広告宣伝費、旅費交通費、外注費、仕入高など、事業活動によって発生した出費を指します。
特に、事業を行うためにかかった「費用(経費)」を計上することによって、「節税」することが可能です。
以下は「費用(経費)」の勘定科目として挙げられます。
- 広告宣伝費:名刺、商品やサービスのパンフレット、広告などの制作費や掲載料のことを指します。
- 旅費交通費:事業で使った交通費、出張時の交通費・宿泊費などを指します。
- 地代家賃 :賃借する土地や建物などの賃料を指します。
- 水道光熱費:事業で使用した電気・水道・ガスの料金を指します。
- 消耗品費 :文房具、コピー用紙、パソコン、プリンターなど10万円未満の物品を指します。
- 減価償却費:資産計上した10万円以上の物品・ソフトウェアを分割した金額を指します。
従業員がいる場合に認められる勘定科目
従業員を雇用している個人事業主は、さらに以下のような勘定科目を使用することが認められています。
福利厚生費
福利厚生費とは、給与以外に従業員の福利厚生にかかる費用を示す勘定科目です。
税法で経費として計上が認められ、非課税対象とすることが出来ます。
- 法定福利厚生
法定福利厚生とは、企業が費用を負担して従業員に提供しなければならないと法律が定めているものです。いわゆる社会保険(雇用保険、健康保険、介護保険、労災保険、厚生年金保険)と子ども・子育て拠出金が該当します。
- 法定外福利厚生
多くの企業は法定福利厚生だけでなく、追加のものも提供しています。この追加部分を「法定外福利」と呼びます。例えば、住宅手当、通勤費、健康診断や人間ドックの受診料などです。
給料賃金
給料賃金とは、従業員に支払った給料や賃金を表す勘定科目です。
「給与」や「給料」「給与手当」なども同じ意味ですが、確定申告で提出する決算書には「給料賃金」と記載されています。
以下に給料・賃金に含まれるものと含まれないものの一例を挙げます。
- 給料賃金に含めるもの
基本給、賞与、残業手当、休日出勤手当、職務手当、住宅手当など
- 給料賃金に含めないもの
通勤手当(基準額以下)、休業補償、冠婚葬祭費、研修会や講習会の参加費用など
給料賃金は事業費用として計上され、利益計算の際に引き落とされます。
また、従業員を雇って給与の支払いをするには、事前に届出が必要です。
給与の支払開始から1ヶ月以内に、税務署へ「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」を提出する必要があるので、注意してください。
まとめ
個人事業主として事業を運営する際、適切な経営管理のためには「給料」や「勘定科目」といった経済活動の記録・管理が重要です。
個人事業主自身には「給料」の概念がなく、「事業主貸」や「事業主借」といった勘定科目を通じて自身の取引を管理します。この取引記録は、事業の収支管理や税金計算の基礎となります。
従業員を雇用する場合、その給料は「給料賃金」として経費に計上します。また、アルバイトを雇う場合は、「給料所得控除」の恩恵を受けることが可能ですが、確定申告時には源泉徴収票が必要です
また、従業員に対する給料の決定には複数のポイントがあります。同業者の給料相場や最低賃金を把握し、給料以外の費用や福利厚生も考慮に入れることが重要となります。
従業員に給料を支払う場合、税務上の義務として源泉徴収を行い、その情報を税務署に提出することが求められます。このような処理は正確な税務申告に欠かせないものです。
基本的な勘定科目は、現金、売掛金、買掛金、収益、費用などがあり、従業員を雇用している場合、その給料や福利厚生費はそれぞれ特別な勘定科目として計上します。
以上の各ポイントを理解し、適切に活用することで、個人事業主は事業運営の効率を高め、事業の持続的な成長を支えることが可能となります。
正確な記録と適切な管理は、個人事業主の成功への鍵となりますので、ぜひマスターしてください。
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