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無償・無報酬の業務委託は違法?回避方法や対策も紹介

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はじめに

フリーランス・個人事業主として仕事をしていると、「今回は無償でお願いできませんか?」という依頼に戸惑った経験がある方も多いのではないでしょうか。

どれだけスキルや時間を費やしても、報酬が発生しない契約は、不公平感や将来の不安を引き起こしやすいものです。

近年、フリーランスを取り巻く環境が注目される中で、「無償業務委託」が本当に問題ないのか、あるいは違法になり得るのか、その境界線が気になる方も増えています。特に、契約書がない場合や条件が曖昧な場合には、後々トラブルに発展するリスクも無視できません。

そこで今回の記事では、無償業務委託における法律的な考え方や、具体的なリスク、そしてトラブルを防ぐための実践的な対策について詳しく解説していきます。

そもそも無償業務委託とは

無償業務委託とは、業務を依頼する側が、受託する側に対して報酬を支払わずに契約を結ぶ形態を指します。

通常の業務委託契約では、業務を遂行した対価として報酬が支払われるのが一般的ですが、無償の場合、その報酬が発生しません。一見すると、善意や経験を積む機会として捉えられることもありますが、労力や時間が報われないリスクを伴うため、慎重な対応が求められます。

特に、フリーランスや個人事業主がこのような契約を受ける際には、どのような背景や条件があるのかをしっかり理解することが重要です。以下では、具体的な事例を挙げつつ、無償業務委託の実態について掘り下げていきます。

業務を委託する側が受託する側に対して報酬を支払わない業務委託契約

無償業務委託の最大の特徴は「報酬が支払われない」という点です。

通常の業務委託契約では、成果物や提供されたサービスに対して金銭が支払われます。しかし無償業務委託では、例えば「実績づくりのため」「試験的な依頼」などの理由から、金銭的な報酬が一切発生しません。

報酬がないことで受託者には経済的リスクが生じる一方、契約の性質上、依頼者側にもリスクがあります。例えば、無償であることを理由に、受託者が期待通りの品質を提供しない可能性や、契約そのものがトラブルの火種になる場合があります。

また、日本の民法上では「無償契約」であっても、契約が成立すればその履行義務は発生します。具体的には、業務内容や納期が契約書で定められている場合、それに従わなければなりません。そのため、依頼者側も軽い気持ちで無償の契約を結ぶことは避けるべきでしょう。

無償業務委託の例

無償業務委託はライターやWebデザイナーなど、フリーランスの職種に多く見られる問題です。

ライターのテストライティング

ライターがクライアントから記事執筆の仕事を受ける際、「採用前のスキル確認」という名目でテストライティングを求められるケースがあります。テストライティングでは報酬が支払われる場合もありますが、「無償」で行われることも珍しくありません。

クライアント側は「実力を見たい」という正当な理由を提示しますが、受託者にとっては、時間や労力を割いて執筆したにもかかわらず、それが評価に繋がらなかった場合、ただ働きとなってしまいます。

さらに問題なのは、無償で提供したコンテンツがそのまま商用利用されるケースです。本来、執筆した記事の著作権や使用権は報酬の支払いを前提に譲渡されるべきですが、無償の場合、その線引きが曖昧になることがあります。

Webデザイナーのコンペ参加

Webデザイナーが新規案件を獲得するためにコンペに参加することも、無償業務委託に近い状況といえます。

コンペ形式では、クライアントが複数のデザイナーに対してデザイン案を依頼し、最終的に採用された案だけに報酬を支払う形式が一般的です。この場合、採用されなかったデザイナーの労力は報われず、事実上の無償労働となることが少なくありません。

さらに悪質なケースでは、採用されなかった案が一部改変されて使用されることもあります。こうしたトラブルを防ぐためには、コンペに参加する前に契約内容を確認し、必要であれば著作権の保護に関する条項を追加することが求められます。

業務委託の無償・無報酬は原則として違法にはならない

悪質性が高そうな業務委託における無償・無報酬の契約ですが、必ずしも違法とは限りません。民法では「契約自由の原則」が認められており、当事者同士の合意があれば報酬を伴わない契約も成立するからです。

ただし、無償契約にはそれなりのリスクや注意点が伴います。契約内容やトラブル防止策を明確にしておかないと、後々の問題につながることもあるでしょう。

次に、無償・無報酬の業務委託契約がどのように成立するのかを解説していきます。

契約自由の原則により無償・無報酬の業務委託契約は成立し得る

日本の民法では「契約自由の原則」が認められており、契約の内容や条件は当事者間の自由な意思によって決定できます(民法第521条)。これは、報酬の有無に関わらず、双方が納得すれば契約が成立することを意味します。

たとえば、ある個人事業主が「今回は無償で対応する」と合意した場合、それは法的に有効な契約となります。この点について、民法第521条は以下のように規定しています。

民法第521条(契約の自由)

契約は、法律、公共の秩序又は善良の風俗に反しない限り、その内容を自由に定めることができる。(引用元:e-GOV法令検索

契約の自由というのは、無償業務委託においても適用されます。例えば、フリーランスがスキル向上やポートフォリオ作成の一環として無償で仕事を引き受けるケースなども該当します。

しかし、無償契約にはリスクも伴います。例えば、契約内容が曖昧だと、依頼者と受託者の間で認識の違いが生じやすく、結果としてトラブルが発生する可能性があります。そのため、無償であっても契約書を作成し、業務内容や条件を明確にしておくことが重要です。

また、無償契約であっても、労働基準法が適用される雇用契約ではないため、最低賃金の保障などがありません。つまり、無償・無報酬の業務委託契約とは依頼者側の負担が軽減される一方で、受託者にとっては不利な条件となる可能性が高い傾向にあります。

委任契約・準委任契約はそもそも報酬請求できない

民法における委任契約や準委任契約は、報酬を伴わない契約が原則として認められています。具体的には、民法第648条第1項で以下のように規定されています。

民法第648条(報酬)

受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。

受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。

(引用元:e-GOV法令検索

上記の規定により、報酬の有無は契約内容や慣習によって決定されるため、報酬が明記されていない場合は、受任者(業務を行う側)が報酬を請求する権利を持たないことになります。

例えば、弁護士や税理士が行う委任業務では、報酬額を明記する契約書を交わすことが一般的ですが、報酬について合意がない場合は、法的に報酬を請求することが困難です。これと同様に、フリーランスが無償で請け負う契約では、報酬の明記がない限り請求権が発生しません。

また、準委任契約の場合も、基本的には報酬が発生しない点は同じです。ただし、報酬が支払われることが一般的な業界であれば、その慣習を根拠に報酬請求が認められるケースもあります。ただし、慣習が存在することを受任者が証明する必要があり、簡単に認められるわけではありません。

このように、報酬が明記されていない場合には、受任者側が非常に不利な立場に置かれる可能性があります。そのため、委任契約や準委任契約を結ぶ際には、事前に報酬の有無や金額、支払い条件を契約書に明記しておきましょう。フリーランス・個人事業主が業務を引き受ける場合、無償での仕事が結果的に負担だけを増やすことにならないよう、あらかじめ条件を明確にしておくことが必要です。

無償業務委託が問題となる理由

無償業務委託は一見、当事者間が合意すれば成立する合法的な契約形態に思えます。

しかし、報酬の不在によって契約内容が不明確になりやすく、法的な保護を受けにくい状況が生じることがあります。さらに、商法や民法などの法律に抵触する可能性、税務上の問題、偽装請負とみなされるリスクなど、後々のトラブルに発展する懸念が少なくありません。

次に、具体的な問題点について、法令の規定も交えながら解説していきます。

商法や民法に反する可能性がある

無償業務委託は、契約そのものが直ちに違法となるわけではありません。しかし、その実態や契約条件によっては商法や民法の規定に反する可能性があります。特に、報酬が支払われない無償契約では、商法や民法が規定する「報酬請求権」に影響を与える場面があります。

商法第512条には「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。」と定められています。

つまり、商人(企業や事業者)が取引関係で他人の利益になる行為をした場合、報酬が契約書に明記されていなくても請求できる権利を認めるものです。例えば、依頼者が商人に該当する場合、無償業務委託の条件であっても、受託者が「相当な報酬」を請求する可能性はあるのです。

また、民法においても、契約内容が曖昧だったり、双方の合意が十分に得られていない場合には、後に不履行や契約解除に関するトラブルにつながる可能性があります。

民法第521条では、契約内容は当事者間の自由な意思で決定できるとする「契約自由の原則」を規定していますが、この自由には「公共の秩序や善良の風俗に反しない限り」という制約があります。そのため、無償契約が一方的に不利な条件を強いるものである場合、この原則が守られた契約とは言い難く、法的な問題となることがあります。

具体的には、無償契約で業務範囲や成果物の引き渡し条件が不明確な場合、依頼者が追加の業務や予期しない負担を強いるなど、トラブルの火種となりやすいです。また、依頼者が優越的な地位を利用して無報酬の条件を押し付ける場合、独占禁止法に触れるリスクも考えられます。

結論として、無償業務委託は商法や民法が想定する「適正な取引」の枠組みを逸脱する可能性があるため、注意が必要です。契約書に報酬の有無を明確に記載し、業務内容や条件を具体的に取り決めておくことで、法的リスクを回避しやすくなります。また、受託者としては、無償条件であっても商法に基づく報酬請求権を適切に主張できる状況を整えることが重要です。

控除の対象とならない寄付として扱われる可能性が高い

無償で業務を提供した場合、その対価を受け取らないことによって税務上の問題が生じる可能性があります。特に、個人事業主やフリーランスの場合、自身の事業所得や必要経費を税務申告する際、無償提供した労務は経費として計上できず、寄付とみなされるケースもあり得ます。

税務上、対価性のない経済的便益を提供した場合は、寄付行為と判断されることがあり、その場合、一般的な事業経費や仕入れ控除とは異なり、税制上の優遇措置を受けるのが難しいのが現実です。

仮に、受託者が無償で行った業務が実質的にクライアント側の財産的利益を増大させたとみなされ、これが寄付相当と判断されれば、受託側としては所得税や法人税の節税策とは認められず、納税額が増加する可能性があります。また、消費税法上も、対価を受け取らない取引は課税の判定が曖昧になりがちで、後日税務署から指摘を受けるリスクが否めません。

このように、税務上の取り扱いが不利になるリスクがあるため、無償業務委託を行う前に、税理士や専門家に相談し、寄付や贈与とみなされないための対策や、少額でも報酬を設定しておく方法などを検討すべきです。

偽装請負に当たる可能性がある

無償業務委託は、場合によっては「偽装請負」とみなされるリスクがあります。

偽装請負とは、見かけ上は請負契約や委任契約の形を取っているものの、実際には指揮命令関係があり、実態が労働契約に近い場合を指します。このような状況では、労働者を保護するための法律が適用されないように装っているとみなされ、違法と判断される可能性があります。

例えば、受託者がクライアントの指示に従い、業務の進め方や勤務時間まで細かく管理されている場合、それは実質的に「労働者」として扱われるべき関係です。しかし、請負契約の形態を取ることで、クライアントは社会保険料の負担や労働基準法に基づく責任を回避しようとすることがあります。このような状況が「偽装請負」です。

労働基準法では、労働者が適切な保護を受けることを目的としており、賃金や労働条件の最低基準を定めています。もし無償業務委託が偽装請負と認定されれば、依頼者(クライアント)は未払い賃金や社会保険料の支払いを求められる可能性があります。過去にさかのぼって支払い義務が発生するケースもあるため、依頼者側の負担は非常に大きくなります。

さらに、偽装請負は労働基準監督署からの是正指導や法的な処分を招くリスクもあります。このため、契約内容を曖昧にしたまま業務を依頼することは避けるべきです。

偽装請負を回避するためには、業務委託契約の内容を明確にし、指揮命令関係が生じないよう注意することが重要です。具体的には、業務の進め方や納期の管理を受託者に一任し、クライアント側が業務の詳細な指示を出さないようにすることが求められます。また、契約書に報酬や業務範囲をしっかり明記することで、トラブルを未然に防げます。

こうした対策を講じることで、無償業務委託が偽装請負とみなされるリスクを大幅に減らすことが可能です。

業務委託の無償・無報酬が違法になるケース(独占禁止法違反(優越的地位の濫用)

業務委託における無償・無報酬契約は原則として違法ではありませんが、独占禁止法に抵触する場合があります。特に、依頼者側が優越的な立場を利用して受託者に無償労働を強要した場合、それが「優越的地位の濫用」に該当するとみなされる可能性があります。このような行為は、受託者に不当な負担を強いるものであり、法律によって厳しく制限されています。

次に、独占禁止法の規定を交えながら、具体的にどのようなケースで違法となるのかを解説します。

事業者が優越的地位にある

「優越的地位の濫用」は、独占禁止法における不公正な取引方法の一つであり、特定の事業者が取引上、相手方に対して優越した地位を有している場合に問題となります。

一般的に優越的地位とは、取引継続や市場参入などの点で、相手方がその事業者との取引を中止することが容易でなく、実質的に不利益な条件を拒否しにくい状況を指します。

独占禁止法第2条第9項は、不公正な取引方法の定義を示し、同法第19条では事業者が不公正な取引方法を用いることを禁止しています。

また、公正取引委員会が定める「不公正な取引方法」(昭和57年公正取引委員会告示第15号)の第14項において、優越的地位を利用した不当に不利益な取引条件の強要が不公正な取引方法として明示されています。

具体的には、「取引上の地位が相手方に優越している者が、その地位を利用して、正常な商習慣に照らして不当に相手方に不利益を与えること」が禁止行為にあたります。

無償・無報酬の業務委託を押し付けられる場面では、相手方が実質的に拒否できない状況が生じている場合、事業者の優越的地位が認定される可能性が出てきます。このようなケースでは、取引継続を絶たれる恐れや、他のクライアントが得られない事情などが背景にあるため、相手方は仕方なく不合理な契約条件を呑まざるを得ない状況に追い込まれるのです。

事業者の行為が正常な商慣習に照らして不当である

「優越的地位の濫用」が認定されるには、単に強い立場であるだけでなく、その行為が「正常な商慣習に照らして不当」と評価されることが必要です。正常な商慣習とは、市場や業界で一般的に受け入れられている取引条件や方法を指し、その範囲を超えて、明らかに一方的かつ不合理な条件を押し付ける場合、不当とされます。

公正取引委員会は、個別の事例ごとに、業界の慣行や取引の歴史的背景、契約条件の一般性などを総合的に判断します。たとえば、通常は報酬が支払われるはずの業務において、相手方に一切の対価を与えず、長期間にわたり実質的な業務負担を強い続けるような場合、それは正常な商慣習とは言えません。

法律上の根拠としては、独占禁止法第19条「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。」が該当し、その不公正な取引方法の中に「優越的地位の濫用」が位置づけられています。この不公正性は、「公平な競争」を維持し、取引先の事業者を過剰な圧力から守るために設定された基準です。

よって、無償・無報酬の業務委託が、業界標準や一般的慣行を著しく逸脱し、相手方に過剰な負担を押し付ける場合は、「正常な商慣習に照らして不当」と判断される可能性が高まります。

事業者による濫用行為がある

優越的地位があり、行為が不当であっても、実際に濫用と認定されるには、当該事業者がその地位を「利用」して不利益な条件を一方的に押し付けていることが必要です。すなわち、無償・無報酬条件が、取引関係を維持するために受託側がやむを得ず受け入れる状況になっているかが問題となります。

不公正な取引方法(昭和57年公正取引委員会告示第15号)第14項には以下のような定めがあります。

上記の規定は、事業者が優越的地位を行使している点に重点を置いており、事業者が取引停止の恐れをちらつかせたり、依存関係を利用して受託者に無償条件を押し付けた場合、「濫用」と見なされる可能性があります。

例えば、受託者が取引先に大きく依存しており、他に十分な収入源がない場合、無償契約を拒否することが難しくなることがあります。このような状況では、受託者が「断りたくても断れない」という不本意な立場に置かれている可能性が高くなります。結果として、この無償契約が事業者の地位の濫用とみなされることがあります。

一方で、受託者自身がスキル向上やポートフォリオ作成などを目的として自発的に無償契約を結んだ場合は、優越的地位の濫用とは見なされません。あくまで、事業者が相手方の弱みにつけ込むような形で不利な条件を強制した場合に問題となります。

もし事業者が優越的地位を利用して濫用行為を行ったと認定されれば、独占禁止法違反となり、公正取引委員会からの是正命令や課徴金納付命令が下される可能性があります。課徴金の額は売上高に基づいて決定され、企業にとっては重大な財務的負担となるため、事業者側も注意が必要です。

こうしたリスクを避けるためには、契約条件が双方にとって公正かつ合理的であるかを常に確認することが重要です。特に、依頼者側は受託者が無理なく契約条件を受け入れられる環境を整え、優越的地位を利用した取引がないかを意識する必要があります。

無償業務委託の罰則

無償業務委託が適法な範囲を超えた場合、法律違反としてさまざまな罰則が科される可能性があります。中でも、偽装請負や優越的地位の濫用などが発覚した場合、依頼者側に重大な法的責任が発生します。

ここでは、具体的な罰則内容とそれに関連する法律条文を詳しく解説していきます。

残業代や社会保険料の支払い義務

無償業務委託が実態として労働契約に該当すると認定された場合、労働基準法や社会保険関連法に基づき、未払い賃金や残業代、社会保険料の支払いが命じられる可能性があります。

労働基準法第37条には以下のように定められています。

労働基準法第37条(割増賃金)

使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

無償契約であっても、業務内容や実態が労働契約に該当すると判断されれば、過去にさかのぼって賃金や残業代が請求されることがあります。また、社会保険料に関しても、健康保険法や厚生年金保険法に基づき、未納分を事業者が負担する必要があります。

依頼者側に大きな経済的負担が発生するリスクもあるため、契約形態が適切であることを事前に確認することが重要です。

刑事罰

偽装請負や優越的地位の濫用が悪質と判断される場合、依頼者側に刑事罰が科される可能性もあります。労働基準法違反が認定された場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます。

また、独占禁止法違反(優越的地位の濫用)に該当する場合も、刑事罰が課される可能性があります。同法第89条では、違反行為を行った者に対して最大5年の懲役または500万円以下の罰金が科されると規定されています。

刑事罰が適用される場合、社会的信用の失墜や事業継続の困難といった深刻な影響が生じるため、違法行為の防止に細心の注意を払う必要があります。

行政処分

無償業務委託が独占禁止法に違反している場合、公正取引委員会は段階的に対応し、最終的には厳しい行政処分を行う可能性があります。その処分には、警告や注意、排除措置命令、課徴金納付命令、緊急停止命令といった方法が含まれます。

まず、軽度な違反が認められた場合、公正取引委員会から「警告」や「注意」が発せられることがあります。警告・注意は法的拘束力こそないものの、事業者に対して問題点を是正するよう促す役割を果たします。警告や注意の段階で改善が見られない場合、より厳しい対応が取られることになります。

状況が改善されない場合、「排除措置命令」が下されます。ここでは、違反行為の中止や取引条件の見直しなど、具体的な是正措置が求められます。例えば、無償契約の解除や適正な報酬の支払いを行うことが命じられるケースがあります。この命令には法的拘束力があり、従わない場合にはさらなる制裁が科されるリスクもあります。

違反の影響が大きい場合には、「課徴金納付命令」に進むことがあります。課徴金は事業者の売上高に基づいて算定され、違法行為に対する抑止効果を目的とした経済的制裁です。

さらに、受託者への被害が深刻化する恐れがある場合、公正取引委員会は「緊急停止命令」を発動します。この命令では、直ちに違法行為を中止することが求められ、問題が広がる前に迅速な対応が図られます。

行政処分は、事業者にとって経済的負担や信用の低下といった大きな影響をもたらすため、無償業務委託を適切に管理し、法律に則った取引を心掛けることが重要です。

損害賠償請求

無償業務委託が違法行為と認定された場合、受託者から依頼者に対して損害賠償請求が行われる可能性があります。

たとえば、偽装請負が認定された場合、受託者は未払い賃金や精神的苦痛に対する賠償を請求できます。依頼者側に多額の賠償責任が発生するリスクがあるため、事前に契約内容を適切に整備しておきましょう。

権利回復請求

無償業務委託が法律に違反していると判断された場合、受託者は権利回復請求を通じて適切な補償を請求できます。

民法第90条では、公序良俗に反する契約は無効であると規定されています。無償業務委託が不当な条件を伴う場合、契約そのものが無効とされる可能性があります。この場合、受託者は契約に基づいて提供した業務に対する報酬を改めて請求する権利を得られます。

また、無償業務委託が優越的地位の濫用や偽装請負と認定された場合、未払いの報酬や未履行の契約条件に対する補償が求められることがあります。

例えば、依頼者が業務遂行に対して一切の対価を支払わなかった場合、受託者は未払い賃金や付随する損害を請求できます。さらに、精神的苦痛や業務上の損失に対する損害賠償請求も含まれることがあります。

権利回復請求の過程では、具体的な業務内容や契約条件の実態を証明することが重要です。そのため、契約書やメールのやり取り、業務の進行状況を示す記録などを事前にしっかりと管理しておきましょう。

無償業務委託を回避する方法と対策

無償業務委託をそのまま放置してしまうと、後でトラブルや法律違反の問題に発展することがあります。報酬がないことで双方の認識がずれやすく、依頼者と受託者の関係が悪化するケースも見られます。こうしたリスクを防ぐには、契約内容をしっかりと整理し、適切な準備をすることが大切です。

ここでは、具体的な対策についてわかりやすく説明していきます。

契約書の作成をすること

無償業務委託を回避する基本は、きちんと契約書を作成することです。契約書があることで、依頼者と受託者の間で、何をどこまでやるか、といった取り決めが明確になります。明確な取り決めがないと、後から「そんなこと頼んでない」「もっとやってほしい」といったトラブルになりかねません。

例えば、業務の内容や範囲、期限、そして無償で行う理由を契約書に書いておくことで、双方が同じ認識を持てます。これだけで、トラブルの多くを防げるのです。また、契約書には「いつまでに終わらせるのか」「何が完了とみなされるのか」といったポイントも明記しておくと、さらに安心です。

契約書があると、もし意見が食い違ったときに「ここに書いてありますよね」と確認できるので、無駄な争いを防ぐことができます。簡単なもので構わないので、必ず契約書を作成しましょう。

適正な対価を支払うこと

無償契約を避ける最善の方法は、業務の内容に応じた報酬をきちんと支払うことです。お金が絡むと少し話が難しく感じるかもしれませんが、簡単に言えば「やった分だけ適切に払う」という考え方です。

たとえば、「これだけの仕事をお願いするなら、いくらくらいが妥当かな?」と考えて、相場に基づいた報酬を設定します。報酬をしっかり決めて支払うことで、受託者も「これだけもらえるなら頑張ろう」とモチベーションが上がり、仕事の質も良くなるでしょう。

逆に、報酬がゼロだと受託者は「なぜ頑張らなきゃいけないの?」と思ってしまうかもしれません。それが原因で、途中で仕事を投げ出されたり、不満が溜まったりする可能性もあるのです。適正な対価を支払うことで、依頼者と受託者の信頼関係も深まり、良い仕事につながります。

業務委託契約書を作成すること

無償業務委託によるトラブルを防ぐためには、業務委託契約書を作成し、契約内容を明確にすることが重要です。

契約書には業務内容や範囲、報酬の有無、納期、成果物の権利帰属など、基本的な項目を具体的に記載することで、依頼者と受託者の間で認識のずれを防ぎ、後々のトラブルを未然に防げます。

無償契約の場合は「なぜ無償で行うのか」を明記し、双方が納得している理由を記録することが大切です。また、業務範囲や対応可能な内容を明示することで、追加業務や過剰な要求を防ぐ効果も期待できます。

指揮命令関係を避けること

無償業務委託が問題視される原因の一つに、依頼者が受託者に細かい指示を出しすぎてしまうことがあります。これを「指揮命令関係」と言いますが、指揮命令関係があると、業務委託ではなく実質的に「雇用契約」とみなされる可能性が出てきます。

指揮命令関係を避けるには、受託者が自分の裁量で仕事を進められるようにするのがポイントです。

具体的には、「いつまでにこれを仕上げてください」という成果物や納期を指定するだけにとどめて、作業の進め方には口を出さないようにします。また、どこでやるか・どの時間にやるか、なども受託者に任せることで、独立した関係を保てます。

こうすることで、指揮命令関係を避け、無償業務委託が違法とみなされるリスクを減らせます。お互いに気持ちよく仕事ができる環境づくりを心がけましょう。

まとめ

今回の記事では、無償業務委託のリスクや対策について解説してきました。

結論を言うと、無償業務委託は適切な準備や取り決めがない場合、大きなトラブルや法的リスクを招く可能性が高いということです。依頼者と受託者の双方が不利益を被らないためには、業務内容や報酬について明確に取り決めた契約書を作成することが重要です。

また、適正な報酬を支払うことや、業務進行の自由を受託者に任せることで、法律上のリスクを回避し、公平な取引を実現できます。無償業務委託を行う際には、特に偽装請負や優越的地位の濫用といった問題に注意を払い、双方が納得のいく形で業務を進めることが大切です。

無償業務委託に潜むリスクを正しく理解し、トラブルを未然に防ぐためにも、まずは契約内容を明確にし、必要に応じて適切な契約書を作成することを心がけましょう。

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